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インフレータブルボートの接合方法「ヒートシール(熱溶着)」の物語|BLOG

2025.05.20

インフレータブルボートの接合方法「ヒートシール(熱溶着)」の物語

 

皆さんは、インフレータブルボートがどのようにして接着されているかご存じでしょうか?

インフレータブルボートの接合方法には、主に「接着剤」「ヒートシール(熱溶着)」2種類があり、部位や目的に応じて使い分けることが大切です。

しかし近年、ヒートシールについて誤った情報が広がっており、あたかも1つの接合技術だけで総合的な性能が決まるかのような発信も見受けられるようになりました。正しい知識を持つべきメーカー側が、このような発信をすることはいかがなものかと当社は考えています。

長年にわたりインフレータブルボートを製造してきたジョイクラフトの願いは、お客様がボートについて正しい知識を持ち、自信をもって最適な一艇を選んでいただくことです。そのためには、トップブランドの責任感として正確な情報を忖度なく発信する必要があると感じました。

そこで今回は、インフレータブルボートの接着方法の1つ「ヒートシール」の知識について解説します。ジョイクラフトが考えるボート選びの重要な視点についてもお伝えしますので、ぜひボート選びの参考にしてみてください。

 

インフレータブルボートの主な接着方法と特徴

現在、インフレータブルボートの接合には主に接着剤とヒートシール(熱溶着)という2つの方法が用いられています。

ヒートシール_1.jpg

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<接着剤のメリット・デメリット>

  • メリット: 複雑な曲面や硬いものも接着可能。ヒートシールのように接合部分が溶けて薄くならず、空気漏れの心配が少ない。比較的高い接着強度を持つ。
  • デメリット: 工程が多く、加工費がかかる。(高コスト)また、美しく仕上げるには熟練した技術が必要で、使用・保管状況によっては加水分解による経年劣化が起こる。 

<ヒートシール(熱溶着)のメリット・デメリット>

  • メリット: 製造工程が少なく、コストを大幅に抑えられる。また、接合部の経年劣化が比較的少ない。
  • デメリット: 薄いボート生地への使用は一般的に難しく、技術が必要。市場で多く流通している厚さ0.9mm程度の生地には簡単に利用できるが、より薄い生地や立体的なもの、複雑な曲面、硬いものには不向き。まれに、屈曲の繰り返しにより接着面が破壊されることがある。

ヒートシール&接着剤.jpg

なお、ヒートシールの熱源には高周波、超音波、レーザー、熱風など色々ありますが、高性能ボートのボート布の接合には、導入コスト・ランニングコストが安く、加工の自由度が高い「熱風方式」が主に使用されます。

 

人件費や簡便さを考えると、多くの企業は「施工可能な箇所には積極的にヒートシールを採用したい」と考えています。

というのも、ヒートシールは専用機械を使用した比較的簡単・スピーディーな製法であり、技術者の腕や機械の性能によって仕上がりが大きく変わることもありません。

一方、接着剤の場合、接着剤自体の性能にばらつきがあるため、慎重な選定が求められるといえます。

とはいえ、現状ヒートシールだけでボートを製造するのは現実的ではありません。ヒートシールは溶けた箇所に圧力をかけて接着するため、接着部分が薄くなります。その結果、薄いボート布に使用すると糸と糸がタッチしてしまい、空気漏れのリスクが高まります。

特に、エンジンを取り付けるトランサム・オールロック、ボートの底布など、力のかかる重要な部分やアクセサリーの取付けには信頼性の高い接着剤が使われることが多く、ヒートシールは接着箇所が単純なチューブ本体のみの加工に利用するのが一般的です。

そのため、一部のヨーロッパブランドを除き、ほぼすべてのボートメーカーでは、ひとつのボートを作る際に接着剤とヒートシールを併用しています。

~インフレータブルボートの老舗、ゾディアック社の技術~

インフレータブルボートのパイオニアだったゾディアック社は、1979年頃から熱溶着技術を導入し、小型のテンダーボート(2.4~3.3mクラス)を中心に採用していました。

当時、薄い生地への熱溶着は非常に困難とされていましたが、ゾディアック社はすでに0.6~0.7mmクラスのボート布を熱溶着するなど、高度な技術を駆使していました。

 

「ヒートシール=万能」ではない

ヒートシールはボートの成型において、とても魅力的な工法ではありますが、けっして特別な技術ではありません。

にもかかわらず一部のメーカーでは、あたかもヒートシールが「最新で最良の技術である」と宣伝し、ヒートシールを採用したボートを過度にアピールするケースが見受けられます。

しかし、ヒートシールが可能な箇所は限定的であり、けっして万能とはいえません。

もちろん当社でも、ヒートシールは2000年代の早い段階から導入し、現在でもボートの特性に応じて適宜採用していますが、それをことさらにアピールしてこなかったのは、ヒートシールが特別な技術ではなく、あくまで製造工程のひとつと認識しているからです。

ジョイクラフトがボート作りにおいてもっとも重視しているのは、製品としての「安全性」と「性能」であり、工法はその一部にすぎません。

素材や製造方法も重要ですが、なにより重要なのは「お客様にとってトータルで使いやすく、楽しいボートであるか」という点ではないでしょうか。

ボートの価値はチューブの製法だけで決まるのではなく、全体のバランスが取れた設計であることだと、ジョイクラフトは考えます。

インフレータブルボートを選ぶ際は、工法や素材など一部の情報にばかり注目するのではなく、そのボートがどのようなコンセプトで設計されているか、という点に注目していただけると、間違いのない選択ができると思います。

 

日本のニーズに応える設計がジョイクラフトのこだわり

日本では、釣りを目的としたインフレータブルボートの使用が多く、釣り場まで運んで空気を入れ、使用後にはまた空気を抜いて自宅に収納・保管するのが一般的です。

そのため、お客様は軽量、強度、高性能、持ち運びやすさ、収納のしやすさなど、多くの要素を求めています。

通常、これらの要素をすべて満たすのは難しいものですが、ジョイクラフトでは船型や構造を徹底的に分析・検証することで、これらの相反する要素を高次元で実現したインフレータブルボートを製造しています。

また、当社では0.52mmの軽量素材から、1.2mmクラスの厚手素材まで8種類のPVC生地を使い分けています。

一般的なボートメーカーや業者では0.9mm前後の生地を全モデル共通で使用していますが、当社では日本のマーケットに適した生地の厚み・種類を適宜選定。

加えて、オリジナルのボート布も開発するなど、それぞれのモデルに合わせた設計を行っています。

ボートはそれぞれ異なる特徴を持っているため、各ボートの使用目的に最適な生地を選択していることは、私たちの大きな強みだと自負しています。

一般的に、ボート布を製造する場合は1ロット2000m程度とかなりの量になります。

これは3mクラスのボートにして約200台分。

ここまで大量のボートを1種類だけ作るのは現実的ではなく、多くのボートメーカーでは市場に広く出回っている1ロール50mで手に入る0.9mmのボート布を適宜採用しています。

一方で0.9mmのボート布は重く、更に気温が下がると硬くなるため、畳むのが大変です。

ロシアやアメリカなど広大な土地がある国では、使わないときもボートを膨らませたまま置いておけますが、日本ではボートを小さく畳んで保管するのが一般的なため、当社ではなるべく軽量かつ柔らかな、強度の高いボート布を使用しています。

 

最後に

1970年代からヒートシールを採用してきたゾディアック社のように、世界を見渡せば、この分野で一日の長を持つ企業もあります。

ですが私たちが大切にしているのは、海外の技術を盲目的に称賛することではなく、日本の環境やユーザーのニーズに最も合ったボートを提供することです。

ヒートシールがすばらしい、接着剤がすばらしい、というような単純な話ではなく、大切なのは「どんな場面で、どんな使い方をするのか」を見極め、それに適した工法と素材で丁寧にボートを作ることだと、私たちは考えています。

皆さまに安心して長く使っていただけるインフレータブルボートを、これからも真摯に、誠実につくり続けてまいります。

ぜひ一度、当社のボートに触れて、その違いを感じてみてください。